うつ病
うつ病とは?
うつ病は、決してなまけや単なる疲労ではなく治療を必要とする病気です。
うつ病になると、物事を悲観的に考えたり思考力が低下するため、適切な判断ができなくなります。そのためにあせったり、自分を不必要に責めて自殺を考えることもあります。しかし、それは病気の症状ですから絶対に実行してはいけません。
このようなときは、例えば人生の大きな決断は延期することが必要です。自らが判断しかねるときは、まわりの助けをかりましょう。
この病気は「くすり」と「休養」が治療上とても大切になります。まずはくすりをきちんと服用し、こころの休息をとれる環境をつくりましょう。
回復には時間がかかります。個人差がありますが3カ月はかかります。回復までの道のりは一進一退を繰り返しながらおちついていきます。多少調子が悪い日があってもあせらないでください。
治療がうまくいくためには、病気を正しく理解して、ご本人やご家族が治療に参加していただくことが大切です。
正常な「憂鬱(ゆううつ)」や「落ち込み」との違い
誰にでもある憂鬱(ゆううつ)な感じや気分の落ち込みは、気分転換などにより改善されますが、うつ病になると「楽しい」「ここちよい」という感覚が感じられなくなってしまい、気分転換をしても気分が晴れず、その状態が2週間以上つづきます。
ありふれた病気です
女性の5人に1人、男性の10人に1人が生涯に1度うつ病になります。決してめずらしいものではなく、ごくありふれた病気です。
なりやすい性格やきっかけ
もともと律儀で責任感が強く、徹底性(完全主義傾向)や他人との関係を重んじる傾向がある一方で、状況や役割の変化に対してやや柔軟性に欠けるところがあるようです。このような人が、状況や役割の変化をきっかけにうつ病になることが多いようです。
状況・役割変化の例
仕 事 | :昇進、転勤、退職 |
家 庭 | :引越、出産、子供の独立 |
身 体 | :病気、閉経 |
喪失体験 | :失恋、死別、離婚 |
うつ病の原因
うつ病は、脳の神経伝達機構の障害による脳機能の低下によっておこります。その修復こそがうつ病治療の中心となります。詳しくは「3.くすりについて」の項をご覧ください。
うつ病の症状
頭が痛い、重い ・ 眼がかすむ ・ 耳鳴り ・ 肩がこる ・ ドキドキする
息が苦しい ・ 食欲がない ・ 胃部不快感 ・ 便秘 ・ 下痢
精神症状
わけもなくゆうつで悲しい ・ おちつかない
イライラする ・ 何もしたくない
テレビがおもしろくない ・ 集中できない
悲観的な考え ・ 意欲が出ない
気分のおち込み
その他
だるい ・ 眠れない
くすりについて
作用基準
うつ病は脳の神経伝達機構の障害によっておこります。脳内で神経と神経の間(シナプスといいます)の情報をやりとりする物質を神経伝達物質(=セロトニン、ノルアドレナリン)といいます。この物質により、神経間の情報のやりとりが行われます。しかし、うつ病の人は神経伝達物質の量が不足し、情報のやりとりがうまくいきません。そこで抗うつ薬を使ってそれを改善します。
効きかた
飲みはじめてから2~4週間ほど遅れて効いてきます。すぐ効かないからといってくすりをやめないことが大切です。
飲みつづける期間
症状がよくなっても、すぐにくすりをやめると再発しやすいため、しばらくくすりを飲みつづけることが大切です。抗うつ薬には依存性はなく、基本的には一生飲みつづけるものではありません。ただし、重症の人やうつを繰り返す人は長期的に飲みつづけることが必要です。
副作用
副作用がおきた場合は自己判断することなく主治医と相談しましょう。一般的な副作用は次のとおりです。
1.吐き気や胃のムカつき | 2.便秘 |
3.口が渇く |
4.眠気 |
5.尿が出にくい | 6.性機能の低下 |
7.急な高熱・発疹など |
急性期のすごしかた 症状がとれるまで
こころの休養がとれる環境づくりをしましょう
何をやっても物事を悲観的に考えたり思考力が低下するためうまくいきません。無理せずゆっくりとこころを休めましょう。無理な気分転換は、あせりやつかれをまねきます。
具体的に負担を軽くしましょう
社会人であれば、主治医に診断書を書いてもらい、しばらく仕事を休んだり、上司の理解を得て仕事を減らしましょう。家庭の主婦であれば、家族に助けてもらい家事の負担を減らしましょう。
社会復帰に向けて
社会復帰をはじめる目安
あせりやゆううつ気分が消え、復帰への意欲が出てきたら、少しずつ社会復帰をはじめましょう。軽いおっくう感が残ることもありますが、ゆっくりおさまりますのであわてないようにしましょう。
社会復帰のはじめかた
休業中であれば、定期的に出社時間に図書館や喫茶店などに出かけてみましょう。家庭の主婦であれば、負担の軽い家事からはじめましょう。生活リズムを整え、あせらずゆっくりとやれることを増やしましょう。
気をつけるポイント
具体的で計画的な復帰計画がたてられていることが大切です。職場復職であれば、はじめは通うだけのつもりではじめ、半年くらいかけて元の仕事量に戻しましょう。困ったときの相談相手をあらかじめ決めておき、孤立して1人でストレスを抱えこまないようにしましょう。
治りかけのあせりに気をつけましょう
治りかけの社会復帰の時期に、必要以上にあせってしまうことがあります。このようなときはペースを落として無理をしないようにしましょう。
ストレスをためないために
ものの見方が極端になると、やりすぎたりこだわりすぎてしまい気づかぬうちにストレスをためてしまいます。ここではうつ病の方がおちいりやすい考え方についてふれます。
二分割思考
あいまいさに耐えられず「100点じゃないと0点と同じ」「結果が出なければ無意味だ」などと、白か黒のどちらかしかないと極端に考えてしまいます。
すべき思考
「○○すべき」と考えていつも自らを追いこんでしまいます。そして、「すべき」ことが達成できないと自己嫌悪におちいります。
極端な一般化
ひとつのことを取りあげてすべてが同じだと結論づけます。例えば、仕事でうまくいかないことがあると、すべて失敗するに違いないと考えます。
拡大解釈と過小評価
自分の気になることだけに目を向け、自分の考えや予想に合わない部分はことさら小さく見てしまいます。例えば、失敗や短所ばかりが目につき、成功や長所に目がいきません。
対策として、主観的になりすぎず、おちついて客観的に物事を見ることが大切です。そのためのヒントをいくつかあげておきます。
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ご家族の方へ
まずは、うつが治療を必要とする病気であることを十分にご理解ください。
負担を減らし、安心できる環境をつくる
充分な休養によって回復するまで無理をさせないようにしましょう。
責めたり原因探しをしない
責められたり原因探しをされると、過去を悲観的にとらえるため、過度に責任を感じてしまいます。原因と思えることでもきっかけにすぎないことが多く、ひとつの原因ですべてを説明することはできません。
無理にはげまさない
はげましや無理に気分転換で連れ出そうとすると、あせりにつながり逆効果になることがあります。
決断を肩代わりする
思考力が低下して、考えたり決めることが想像以上に負担になります。そのようなときはまわりが決めてあげましょう。
あせらず、あわてず、あきらめず、根気よくサポートをつづけましょう